シンガポール国立大学熱帯海洋科学研究所の珊瑚研究室は、埋立により破壊された珊瑚礁を、早期に再生させるための研究をしています。適切な種を適切な場所に移植するための分析を体験しました。 セントジョーンズ島にて、TMSIが運営している施設で、飼育している珊瑚の説明を受け、観察しているところです。 小宮琉聖 シンガポール国立大学はなんでこんなにきれいなキャンパスなのだろう?」これはNUSに初めて訪れたときに、私が率直に抱いた疑問でした。その答えは、TMSIで珊瑚礁の研究を体験し、その研究活動の社会的な意義を理解することで明らかになりました。 流通情報工学科でロジスティクスを専攻している私にとっては、正直に言うとTMSIで珊瑚の研究を体験するまで、珊瑚については関心の対象外でした。しかし、‟30 by 30”と呼ばれる、2030年までに食料自給率を30%まで上昇させるという、国が掲げた目標を背景に、4分の1もの魚のすみかになっている珊瑚礁の早期回復は、多大な経済効果をもたらすことを知りました。一方で、私が講義でよく学んでいる港湾の浚渫工事が、珊瑚礁や、そこに住んでいる生態系に悪影響を及ぼすことを知りました。TMSIという珊瑚研究所の組織一つを例に取ってもそうですが、シンガポール国立大学は全体として、現在社会が直面している、優先度の高い課題を解決するために、社会活動と研究活動が一体となって動いているといった印象を強く受けました。その結果として、多くの企業や国から多額の出資を受けているのだとわかりました。 データの分析に必要な膨大な数の珊瑚の種類や数量のデータ収集は、地道で骨の折れる作業でした。しかし、そのような作業を行う過程で、珊瑚のサンプルの保管ロケーションを工夫したらもっと楽になるのではないかということや、珊瑚の寸法の計測は自動化できる範疇なのではないか、そもそも定点カメラなどを使用する方が測定の精度が上がるのではないか、といった現状分析や問題点の抽出を学生なりに行う機会を得られました。これは、私の専攻しているロジスティクスの分野での頭の使い方と似通っていると感じます。 研修の最終日に、「シンガポールの人が自国の魚を好んで食べるようになるためにはどうしたらよいか」という議論になりました。私は、珊瑚の早期回復の結果、仮に漁獲量が上昇した場合、食料自給率が向上し、行きつくところは、シンガポールでとれた魚を、現地に住む人々がわざわざ選んで食べたいと思わせる動機づけになると考えます。また、価格競争や、立地的に不利な状況の中で選んでもらうには、安心感や、よりおいしいと思ってもらえるよう、ブランド化による認知や良いイメージを根付かせ、付加価値を生み出すことが必要だと思います。観賞魚の遺伝子組み換えで世界一であるシンガポールであれば、シンガポールブランドの魚が世界的に流通することも現実味のない話ではないと期待しています。 8 シンガポール国立大学 熱帯海洋科学研究所
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