齋藤雷火 タイ隊後半の活動は、ブラパ大学バンセーンキャンパスで行われました。このキャンパスはバンコクから南東に100kmほど、車で90分くらいの距離にあるバンセーンビーチに面していて、付属の水族館には週末バンコクからの観光客も多いです。そんな一大観光地にあるバンセーン海洋科学研究所(通称BIMS)は海洋科学の研究で得られた成果を一般に広く公開するのに適した好立地にあります。研究所の教員から聞いた話では、この水族館のモットーとして海洋生物が生活している環境そのままを観客に見てもらうために、水槽の中のサンゴの養殖や植物・海藻類の栽培、照明の種類・一日の時間に合わせた照明の当て方など、とても気を配った展示を企画しているとのことでした。東京やシンガポール、ニューヨークなどで観られる、美しい照明のもとに世界中から集めた綺麗な魚が一つの水槽で泳いでいるような商業水族館のタイプはこの水族館の趣旨には合わないそうで、訪れた一人ひとりが海洋と人間との関係について考えさせられるような工夫が凝らされた展示が随所に見られました。実際何千tもある巨大な水槽を120cm以上はあるマハタが悠々と泳ぐ姿や、この水族館のシンボルで新設の水族館棟の形のモデルとなったトビエイが、数匹群れをなして生き生きと泳いでいる様子を下から眺めると、自分が海底に立って海の中の魚たちとそこに流れる時間を共有しているような錯覚を受けました。 BIMSでの活動は、ちょうどオーストラリアなどからクラゲ研究の第一人者を招いて行われていた国際クラゲワークショップの6日間に及ぶ講義に参加するというものでした。この講義ではクラゲの定義から始まり、顕微鏡を用いた属の同定による分類学の実践、水族館の試料を用いたクラゲのライフサイクルや生殖のメカニブラパ大学付属の水族館で、海洋科学に関する学術的な拠点としての役割と、そこでの研究で得られた知見を社会に還元するという二つの役割を担っている研究施設です。 ハコクラゲについての講義。写真は、注射針を用いて紫色のインクを水管に挿入し、浮き出るパターンの特徴から種を同定するときの様子です。 ズムの学習、フィールドワークを伴う人間社会との関わりを理解する授業など様々な切り口からクラゲについて学びを深めました。 この講義では授業の半分は英語でしたが、もう半分はタイ語で行われていたので、ネットの翻訳機能を駆使したり、隣に座っている教授に内容の理解を確かめるなど、普段母語で受けている授業とは異なる工夫が必要となりました。この研修で学んだことのひとつに、わからないところや自分の希望はしっかりと相手に伝わる言語で聞いてみるべきであるという教訓があります。分からないものを分からないまま放っておくのは次の学びに繋がらないし、特にカタコトの言語でお互いコミュニケーションをとっている間はなおさら大事になってくるスキルだと感じる場面が滞在中に何度もありました。 社会に出てからもこの発言ができる力や、会話をはじめる能力というものは、巡ってくる機会を最大限活かすのに大切な資質だと感じました。 14 ブラパ大学バンセーン海洋科学研究所
元のページ ../index.html#16